中国へ行く楽しみの一つは、マッサージを受けること。
同業者としての興味はもちろんだが、何よりも疲れている身体を癒してほしかった。
だが、これまでに視障者のマッサージを受ける機会はなかった。
「やっと、見つけたけどちょっと遠いよ。タクシーで行こうか」
メールで何回も念をおしていたので、彼は探してくれていた。
すっかり闇に包まれた路地の一角でタクシーは止まった。
店内に入ると10cmほどの縁框(えんがまち)をまたぐ。
さらに2段ほどの階段がある。これがふぞろいときてる。
(おっと、危ない)
3畳ほどの広さの奥に木の背もたれイスが並んでいる。
さらに3段、左に下りる階段が見えた。私は白杖で確認しながら慎重に下りる。
正面のテーブルの女性がにこやかに笑った。
「眼が悪いのですか?」
「そうです。ところで空いてますか?」
右奥にはベッドがずらりと並んでいた。お客は二人いる。
我々を見ていたマッサージ師が近寄ってきた。
「どうぞ、どうぞ。こっちです」
頑丈そうな男が案内してくれる。私は上着を脱ぎ預けてから、
白杖を壁に立てかける。
彼はそれを手に取った。折りたたみ部分をはずしては、はめている。
「ほう〜、軽くて丈夫。しっくりとまとまって日本製はさすがにいいなー。
中国のはこの折りたたみ部分がすぐにダメになる。これ、いくらするの?」
「え、いくらやったかな〜。たしか、4000円(266元)だったと思うよ」
「ヒエー、高いな〜」
そう言いながら、彼は何度もついて歩きながら確かめていた。
「今度来るときは土産に買ってきますよ」
「ありがとう」
単なる社交辞令に過ぎないとわかっているから、彼もあっさり返してくれた。
中国では過去10年余の間に、視障者マッサージ師が急激に増加しているという。
1991年には、中国の視覚障害マッサージ師人口は1万人だったが、
最新の報告では、その数は5万人に達している。
とは言え、中国の視覚障害者は900万人と推測されるから(1999年、
バンコクセミナー報告)あんま.マッサージ人口5万人はあまりにも少なすぎる。
ちなみに、日本では10万人ほどいる。
あんま資格であるが、日本のような全国統一の国家資格は海外では珍しい。
中国では少なくとも3ランクの異なった資格がある。
何回も確認したが、日本のような盲学校.養成施設のシステムではないようです。
(初級) 2、3ヵ月の短期講習で得られる保健あんま、
(中級) 3年間の専門教育で得られる医療あんま、
(上級) 5年以上の中医養成課程です。
初級と中級資格は視覚障害者にも得られます。
上級資格の専門教育は視覚障害者への門戸が閉ざされています。
上級は西洋医学と東洋医学のどちらの資格をも持つ、医師です。
かって天津中医病院に行ったことがありますが、待合室には顔や手に針をしたまま
患者は待ち、医師は診察後、薬を出していましたがそれが
上級資格なのかもしれません。
「私は針も灸も資格を持っているんだよ」
「へ〜、じゃお医者さんなんだ」
「そうじゃなくて、日本では視障者でも針灸が取れるんだ」
視障者がなぜ針灸の資格をとれるのかと聞かれ返事に困る。
なぜ中国では視障者が取れないのかと、私は聞き返す。
「日本では4〜5年前から、全盲でも医師の資格が取れるようになったんだよ。
ただし、頭がよければだけどね」
欠格事項撤廃の話しをしたが、ますます信じられないという顔をする。
注目されるのは保健あんまと医療あんまとを資格から明確に分けていることです。
日本での無資格者横行が初級で、国家資格が中級にあたるのかもしれません。
足つぼマッサージや少数民族の女の子がやっている店に何回か
これまでに入りました。それは、日本でいう、無資格者の店だったのです。
彼らは中級視覚を持っており、そこはベットでのマッサージが
中心であり、足つぼなどはないのです。
視障者マッサージ師が5万人。中級資格を持つ人がどれだけいるか
わかりませんが、供給が追いつかない現状があるようです
「どう〜、私のあんま、日本と同じ?」
「うまいもんや。日本と同じだよ」
私をもんでくれた中年の男は施術中に何回も聞いてきた。
最後に彼は言った。
「じゃ、日本で働けるなー」
本気か冗談かわからなかったが、私は返事はできなかった。
もう一つ、障害年金について聞いて見た。
「養老金はいくらもらっているの?」
「え、何それ。私はまだ若いからもらってないよ」
養老金(年金)は国営企業を退社した者がもらうもので、障害者年金は
なさそうである。日本の現状を説明してもよかったがいたずらに
自慢話しをしているようでその話しは中断してしまった。
今年は5日間、白杖をついて歩き回りました。
昨年に比べ、確実に視力低下があり不安だったからです。
それでも、凸凹を確認する程度の歩行でした。
上海の老飯店でのこと。食事が終わり、私は白杖をさっそうと出した。
「お父さん、みんな見ているよ。注目の的みたい」
そう言われて周りを見渡すと、確かに見られている。
(おいおい、初めて見るんかいな〜)
前から小さな女の子が歩いてきます。その子は近づいてきて
そして白杖を握って私を見ました。
「おじさん、これ何?」
母親は何も言わない。まとわりつかれても、困るんだよな。
「お父さん、子供が来るよ。注意して」
それからは、娘が後ろから忠告してくれる。
(やれやれ、何の為の白杖なんやら」
日本の白杖がここでは通じない。万国共通と思っていたが
そうではないらしい。それとも外出する視障者がいないのだろうか。
おそらく、考えられるのはそれは極めて少ないのだろう。
一見して私は視障者に見えない。同伴者の少しの助言で歩ける。
だから、ここでは電動バイクも自転車も歩行者も私を
視障者扱いしてくれなかった。
点字ブロックがあっても、意味をなさない。凸凹道は歩きにくい。
雨が降れば大きな水溜りがあちらこちらに。
電信柱からは、裸のワイヤーが張られている。
人通りの多い所では自分の歩くのに夢中で視障者など、おかまいなし。
まったく、バリアフリーのバの字もありません。
それでも、中国へは来年も遊びに行きます。なにしろ、おもろいんです。
さて、来年に向けて働きますかな。
|