いざ、バイトへ


 洋二がアルバイト先に、ようやく電話をかけることができたのは、
夏休み直前のこと。ビクビクしながら電話をすると、オーナーはあっさりと
応答してくれた。
 「時間があるときにでも来て下さい。
一応、試験をしてからどうするか決めましょう」
もう、半日で授業は終わっている。では、明日にでもと即座に答える。

 「そうか。いよいよバイトをするんか。がんばってや」
浅田はあまり感心のなさそうな口調で言った。
 「いや、まだ決まったわけじゃ…ありませんよ。試験を受けてからですわ」
 「何言うとんねん。無免許者が仕事をしている中へ入るんやろ。
これから免許を取ろうとするもんが採用されないわけが無い」
 「それもそうやけど、う〜ん、プレッシャーがきついなー」
洋二はしらけてしまった。


 昼間だというのに客はけっこう入っている。
ゲームコーナーからは子供たちの歓声があがっている。
洋二は下駄箱の鍵を握ったまま、受付カウンターへ向かった。
カーテンの中へはいると、奥は広くて天井が高い。
テーブルを囲んでいた女性たちがいっせいにこっちを見た。
薄いブルーの制服に真っ白なズボンで統一されている。。
あわてて、洋二は頭を下げた。机に座っていた女性が立ち上がってこっちを向いた。
オーナーだった。髪が長く、水商売風の派手な雰囲気だ。
 「宮さん、台になったって」
一群の中にいた男性が、ゆっくりと立ち上がった。
 「じゃ、こっちへ来てもらいましょうか」
洋二は彼に従った。背中には女たちの視線を感じていた。

部屋の中央にある階段を過ぎると左側の部屋へ通された。
ロッカールームだった。両脇に置かれたロッカーの間は広く、
テーブルを囲んで何人かが待機している。
寝転んでいるものもいた。
 「ちょっと、ここでもんでもらうから」
そう言うや、宮さんとよばれた男は、座布団を頭に横になった。
 (え、いきなり…)
洋二はカバンをおろして日本タオルを取り出した。
肩から首にかけてもむ。意外と細い肩はもみやすい。

 「あんた、いくつなん?」
 「どこから来てるの?」
 「結婚はしてるの?」
周りに待機していた女性軍が次々と聞いてくる。
それとなく答えながら宮さんを窺うが彼は何も言わない。
カウンターの女性が姿をあらわす。呼ばれた彼女らは、次々と別の部屋へと消えていく。お客にマッサージをほどこしているのだろう。
彼女たちのおしゃべりに惑わされながらも、試験は終わった。

宮さんはオーナーに報告していた。やがて、元の机の前に呼ばれた。
洋二の胸の高まりは最高潮に達していた。
 「じゃ、明日からでも来てもらいましょうか。
ただし、昼間はいっぱいなので夜の部に入ってもらうからね。
いいですか」
 (へ、そ、そうなん。なんや試験ってこれだけ…)
 「はい、……。何時から何時ですか」
 「5時半から11時だけど大丈夫?」
突然の成り行きに一瞬とまどった。
 「はい、大丈夫です。あのう、何が何やら、さっぱりわからないんですが」

後ろのドアが開いて、赤ら顔の女が声をかけてきた。
手にはタオルを持っていた。
 「私が説明するわ。こっちへ来て」
今さっきお客をもみ終わったという彼女について回る。

 「小さいタオルはこのかご。大きいタオルはここね。おしぼりはここ」
オーナーの座っている机の横の冷蔵庫を開けると中にはおしぼりが積まれていた。
 「このおしぼりを持ってお客様の目の部分にあてるのよ。冷たくて気持ちいいのと
、まぶしさを解消するためね」

男性のマッサージルームには、20台ほどのベッドが並んでいる。
半分ほどはお客がいた。洋二には低いが、女性が多いのでいたしかたないことでもある。
女性マッサージルームは15台ほどのベットがあった。そこは、5人ほどしかいない。

 「ここは、オイルマッサージの部屋。やったことある?」
 「いえ、ありません、と言うよりオイルマッサージを知りません」
正直に洋二は答えた。
 (いかがわしい、マッサージとちゃうんかいな…)
思ったが、言えるわけはない。
 「以前は針の先生がいて針をここでしてたんだけど今はオイル専門」
ベッドは2台だけで狭い部屋である。

 「30分.50分.80分のコースがあり、一つ仕事が終わるたびにこの袋にカードを入れ
ていくの。それをオーナーが集計して給料をくれるわけ」
 従業員入り口は裏口にあり、下駄箱を確認する。
厨房や事務室の横を通り階上へと上がり、
宴会場を横目に通ってマッサージルームへと入る。

 説明が終わってオーナーのところへ変えると、ブルーの制服2枚、
ズボン2枚が用意されていた。
受け取ってカバンに入れていると、
 「あんた、ちょっとここに座りーな。ほら、お菓子もあるから」
屈託のない女性たちに囲まれて洋二はタジタジとなった。
あっというまに、洋二のテーブルのまえには
クッキーやガム.飴玉が並ぶ。アイスコーヒーも出てくる。
 「ここにいる連中は昼間班だから、夜の人たちはまだなんよ。
ま、仲良くしてちょうだいね」
 「はい、こちらこそよろしくお願いします」
案ずるより産むが易し、何がなにやらわからないまま、
健康ランドを後にした。

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