かかりつけ医と
フリーアクセス

 後期高齢者医療保険が導入されて1年。
2009年4月のある日を、想定して創作してみました。
 75歳以上の方と65歳以上の障害者の方は、これからたいへんです。
来年の4月、“ふたを開けてビックリ”にならないように
今から、覚悟しておくべきでしょうね。

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  ●かかりつけ医と、フリーアクセス

 和子は昭和6年生まれ、夫は5年前に他界した。
夫の遺族年金は、年に200万円をわずかに超える額だった。
持ち家だが、築40年にはなるだろうか。
息子夫婦は、隣町に住んでいる。

昨年4月“後期高齢者医療保険証”が届いたときは愕然とさせられた。
≪もう、後がありませんよ。もう終わりですよ≫と
通告されたような気がしたものだった。

70歳になったときは、国民健康保険証とともに
「国民健康保険高齢受給者証」が届いた。
 (あ〜、私も老人の仲間入りをしたんだわ)
しかし、この時はまだ私は若いという自負があった。
体力的にも他の人には、負けていないと思っていた。
今回はさすがの和子も年齢を感じないわけにはいかなかった。


 早朝4時ごろ、尿意を感じて目が覚めた。
起き上がろうとして、頭の痛みに気づく。フラフラする。
 (あ、だめ。おかしいな〜)
無理をせず横になったが、天井が回っていた。
あわてて目をつむった。
が、グルグル回る感覚は消えない。
めまいと、左側の耳がつまっている感じがする。

尿意がまた強まってきた。
しかたなく、和子は目をつむったままトイレへ行くことにした。
グルグル感が続いているので、立つこともできない。
四つんばいで、どうにかトイレまでたどりついた。
ホッとするまもなく、今度は嘔気がしてきた。
ベンザを持ち上げ、かがみこんで吐きながら便器をしっかりと
抱えこんでいた。

どうして寝間まで帰ったのか、隣の文子にどうやって
電話をかけたのかさえ覚えていなかった。

それから近くのN医院へ文子の肩を借りてたどりついた。
窓口の事務員は申しわけなさそうに言う。
 「うちは“かかりつけ医”じゃないから、診ることができません。
かかりつけ医のところへ、行って下さい」
 「あんた何言ってるの、患者さんが苦しがっているのよ。
どこへ行けって言うの」
文子は、くってかかる。その声は和子の耳にガンガン響いた。
 「規則ですからね。かかりつけ医はどこですか?」
口ぶりは、冷淡にあしらうようになっていた。
 「かかりつけ医??」
しばらくの押し問答の末、どうにか診てもらうことになったらしい。

ベッドに横たわり点滴をしてもらって、ようやく
めまいから解放される。それでも、まだふらつく気がした。
 「あ、それから毎日来る必要はありません。また
来週にでも来て下さい」
帰り支度をする、和子を見ずに医師は言う。
 「明日、まためまいがしたらどうすればいいですか」
 「そのときは、来てもらってもけっこうですが、少しぐらいは
辛抱してください…」
 (なんなの、このお医者さんやる気ないの…〜)
看護師は何もしゃべらない。

処方箋を出しながら、この書類にご記入くださいねと
事務員は言った。「かかりつけ医申込書」だった。
どうにか書き終えて提出した。
 「前のかかりつけ医には、廃止届けを出すことを
忘れないようにね」

 「どうなってんの? 最近のお医者さん、何かおかしいね」
文子の言う言葉に、和子は返答する気力もなかった。

 そう言えば昨年4月に“かかりつけ医”とかなんとかで
書いたことがあった。家から少し離れた駅の向こう側のA病院だった。
文子ら友達も一緒に行くので、そこにしただけだった。

月に2度、血圧の薬をもらうためであり
定期検査を受けるためでもあった。
 (まさか、こんなときにかかりつけ医が邪魔するなんて。
これからはちゃんと考えなきゃ。
でも、セカンドオピニオンはどうやって受けるのかしら…)
重たい頭で考えながら、薬局へ向かった。

処方箋を提出すると
 「お薬手帳はお持ちですか」
白衣の女性があいそよく聞いてきた。
保険証や診察カードをまとめて入れている袋から
お薬カードを出した。
 「あ、これうちのじゃないですね。新しく作りますね。それから
この書類にご記入ください」
 「エ、はい…そう、はい」
和子は何のことかわからなかったが、返事をしていた。
それは、「かかりつけ薬局申請書」だった。
 (また、かかりつけ……何なのこれは)
 「うちを利用するには、必要ですから」
和子の気持ちを見透かすかのように女性は言う。
 「と言うことは、別の薬局へ行ってはだめなんですね」
文子が和子の気持ちを代弁してくれる。
 「そうなりますね」
女性は、目をそらして答えた。

レシートには、別掲基本料.別掲指導料などが
3,200円となっていた。薬代は4,400円だった。

 【解説】
 08年4月から導入される“後期高齢者医療保険”制度には、
かかりつけ医制度が導入されます。患者は登録制となります。
指定したかかりつけ医しか行けなくなります。
薬局も、おそらく同様でしょう。
日本の保険制度で最もほこれたフリーアクセスは
どうなってしまうのでしょう。
薬局の処方薬は保険が使えますが、
別掲基本料.別掲指導料は実費です(03年から)。
このことを知る患者さんが少ないため、和子のように
薬代が高くなったと思うだけです。
また、通院と入院とも包括定額制が導入されます。
一つの症状に定額の診療報酬しか出ないために、よけいな治療が
できなくなる可能性が強いようです。
75歳以上の患者さんが適度な回数で来院されることは
問題ありませんが、これまでのように行きたいときに行く。
暇だから、とりあえず行くということはできなくなるようです。

この予想がはずれてくれることを、祈ります。
             (2007年9月8日)

  


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