習慣は治らない


 公園を強く吹きぬける風は、ブランコを躍らせていた。
いつもなら遊ぶ子供やおしゃべりを楽しむ母親たちで
賑やかな笑い声が絶えない公園だが、今日は誰もいない。
遥か上空を流れて行くちぎれ雲は、南西から北東方向へ飛んでいく。
台風12号は夜半には関西地方に最接近する恐れがあった。
和子は部屋の裏手にある公園を見ながら、
雲の流れに目をやっていた。

ふと視線を動かすと、白髪が紊れ散っている老人が
ベンチに座っていた。顔はわからない。
スックと伸びた背中は、びどうだにしない。
公園の入り口から急ぎ足で老婆に近づく、女が見えた。
文子だった。老人は文子の母親だった。

二言.三言なにやら言った後に、文子が手を取って立たせている。
母親はごねている。叱責している声が聞こえるようだ。
ようやく立ち上がった母親の緩慢な動作に、合わすかのように
慎重に足を進めていく。

和子の家のあるかいわいは、古びた長屋が多かった。
戦災で焼け残った長屋通りは、何軒かの空き家があり
朽ち果てて見る影もない家もある。
口の悪い人は‘後家通り’とよんでいた。
もちろん、後家さんが多いということだが、
 古家さん(古い家が多い)という辛辣なひにくも込められている。

夫婦がそろっている家は1軒だけで、あとは伴侶を何らかの形で
失った者が多かった。女一人の家がほとんどだった。
後家通りは自他共に認めるところでもあった。

そんな中で、文子のところだけは母親と二人暮らしをしている。
痴呆で昼夜かまわず徘徊していたが、膝の痛みが幸いして
近頃では母親は遠くへ行けなくなっていた。
この公園が好きで、暇さえあればベンチに座っていた。
子供の遊ぶ姿を、いつまでも目で追っていた。
若い母親たちも心得たもので、袋に入れた飴玉を
 「はい、おばあちゃん。どうぞ」
話しの相手にはならなかったが、仲間には加えてくれていた。
だから、天気のいい日には、目を離していても安心だった。

 「膝の手術をしているし痴呆もあるので介護2にはなっているけど、
予防の為のリハビリテーションもできないんよ。デイケアーもすぐに
抜け出してくうんやから、困っちゃうわ」
ようやく昼寝についた母親を残して、文子がやってきたのは
午後3時すぎだった。
 「台風がやってくるらしいけど、夜中は大丈夫なん?」
 「睡眠薬を飲ませるし、雨がふったら外に出ないと思うけど‥」
まるで人事のように文子は言う。

 「それよりも困っているのは接骨院なんよ。うちの母、
接骨院に行くことだけはボケていても時間になったら行くの。
月に4回は保険が利くけど、あとは実費になるんやから。
向こうさんもわかっていると思うけど、母があんな状態でしょ。
結局、うちに請求書がまわってくるんよ。それが高いんだから〜」
膝に人工関節が入っているから電気治療はできないし
いったいどんな治療をしているのやらと、文子は付け加える。

痴呆の母親に接骨院に行くなと言っても、わかるわけがない。
ただ、行くほとだけが1日の仕事であるらしかった。

介護度がこれ以上悪化しないように、予防給付が設けられている。
しかし、痴呆の人たちの筋トレなんかできるわけがない。
いくら立派な制度を作っても漏れてしまう高齢者がいる。救済処置は
考えられていないように、和子には思われた。

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 【ちょっと解説】
定額報酬は病院だけでなく、保険が使える接骨院にも影響します。
75歳以上の高齢者は800万人(2007年現在)、
接骨院に依存している高齢者の行き先がなくなってくるでしょう。
また、物量治療しているクリニックや病院でも、経営が危ぶまれてくると
考えられます。

 福田新政権になって、にわかにこの後期高齢者医療保険についての
論議が行われています。なんや‥わかっとったんか、改悪だということが。

論議がはじまったということは、格差社会に対する批判が強く
このままでは衆議院選挙で勝てないと踏んでいるからでしょう。

とりあえずは後期高齢者医療保険制度は見切り発車して
予算を軽減する方向でやられるようです。
 耳ざわりのいいニュースは要注意です。
国民負担の構造は結局変わりそうにありません。
今後を見守りたいと思います。
以下、参考です。

  首相、高齢者医療費負担増の凍結に向け協議会設置を了承 (9/29 読売)
 

  自公政権合意 高齢者医療費負担増の凍結、実務者で協議(朝日)



日経から
 

  舛添厚労相、高齢者医療費の負担増凍結に難色(日経)


  高齢者医療費、国が補てん 財源最大で1700億円( 共同通信)


  
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