ホルモン焼き


     ホルモン焼き

 その後も、洋二たちは肝臓やすい臓.胆嚢を
次々と手に取り見て回った。
教科書や模型で見るように肝臓ははっきりとはしないが
茶褐色をしている。
心臓は赤くはなかったが
明らかに他の臓器と異なる色をしている。
大動脈の直径は3cmはあるだろうか。ここから排出される
血液の量たるや想像もつかない。

 最初のうちこそ、こわごわ触っていたが慣れてくるにつれ
みんな積極的に観察している。
あっという間に時間は過ぎた。


 ざらざらした手をせっけんで丁寧に洗う。
が、やはり少しいつもの感触とは違っている。
いくら洗っても爪の間に何かが入っているような
異物感はとれなかった。

 「どや、晩飯食って帰るか」
畑中が誘うと何人かが同意。
 「もうええですわ。肉なんて食べる気がしません」
と言って帰った連中がほとんど。
 「もちろん、先生のおごりですよね」
浅田が冗談っぽく言う。
 「無茶言うな。安月給やでわしゃー。
まービールぐらいならおごるけどな」
近くの商店街のホルモン屋へ向かう。

 駅の裏にあるアーケードは証明が暗く人通りは少ない。
店には誰もいなかった。我々6人が二つのテーブルを占めた。

 「すまんがな、わしら目が悪いんや。
自分らで焼くと生を食べるから、焼いて持ってきてんか」
そう言って次々と注文する。
店員も心得ている。
 「わかりました」
すぐに応ずる。


 「お待たせしました。ハラミです」
初老のおばさんがたれをつけた肉を皿にのせ
運んでくる。
みなが一切れ食べたのを見計らって畑中は言った。
 「これはな、牛の横隔膜や。どや、うまいか」
 「えー、そうなんや」
一瞬とまどい、小村はしみじみと肉をながめていた。

 「牛には、4つの胃袋があってな、上ミノは
牛の第一番目の胃や。ジューシーでプリプリとしていて
上品な脂の旨味が特徴やで。
 レバーはその名のとおり肝臓や、高タンパク・
低脂肪でビタミンAや、鉄分が豊富や。
ツラミはほっぺた。トロリとした脂から
噛むほどに味が出てくるで。
ハツは心臓。くせが無くシコシコとしとる。
コリコリは、心臓の一番太い大動脈や。名前のとうりコリコリとしているが、
丁寧に切り込みを入れているので柔らかく仕上がってるやろ。
ウルテはノド。食道の軟骨やから噛めば噛むほど濃い味が出てくる…」
畑中は次々と説明をしていく。

 みな、ホルモンは食べなれていたし、内臓だと
いうこともむろん知っている。
だが、さすがにげんなりとしてくる。

 「もうええですわ、先生。食欲がなくなってきた」
 「どうせ、試験には間径ないでしょう」
浅田と洋二はたまらず制する。

 「趣味が悪いな先生は」
店のおばさんも、ニヤニヤ笑うだけ。
 「あの大学の新入生たちも同じように、ここで
食べてワイワイ言うてますわ」
 解剖見学の後のホルモン屋は、毎年恒例のようだ。

 洋二もさすがに食欲をなくした。
キャベツとビールばかりを、すすっていた。

 「3年になったら、局所解剖や。今度は血管や
神経なんかが見れるからな。楽しみにしとけよ」
畑中は意味ありげににやりと笑った。


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