1
洋二は盲学校へかよっている時、健康ランドで、
マッサージのアルバイトをしていた。
景気のいいときで、50人ぐらいのトレーナー
(昼夜あわせて)がいた。
ほとんどが女性で、男は4.5人ぐらいだった
西日本各地の健康ランドをまわって働いている人、
離婚して、子供を育てながら働く人。
一生懸命働いたお金を、男に貢いでいる人。
そうかと思えば、客をうまいこと丸めこみ
車はもちろん、マンションまで面倒みてもらっている人もいた。
女性が働くことの難しさ、たくましさを考えさせられる
仕事場だった。
あんま.マッサージの免許は持たず
実践だけでやってきた人達だった。
「いつごろからこの仕事をしているの」
ある女性に聞いてみた。
母親と同じぐらいの年の彼女は
「昭和29年に学校の体育館に求人の係員がやってきて
健康ランドのマッサージの仕事を見つけたのよ」
なんと、彼女は40年もこの仕事をしていた。
今さら、無免許は違法だなんて言えるわけはなかった。
むしろ、長年放置していた厚生省に
腹立たしさを覚えた。
2
その彼女が、洋二が開業してから
お客さんとしてよく来てくれた。
彼女は30代で離婚し、子供はいなかった。
その昔、彼女は指名客が多かったらしく
指はかなり変形していた。
その彼女が、あと数年で古稀を迎える。
これからの不安を話しだした。
「今、住んでるマンション古くて地震で半壊してしまったの。
家主は修理してくれず、出るにでれないのよ。かと言って
家賃が安くなるわけでもなく、市からの助成も打ち切られてしまってね。
だから、市営住宅に移りたいと思うの。
身内が、近くにいないので保証人になってほしいのだけど、だめかな」
彼女は申しわけなさそうに、言った。
もちろん、洋二はすぐにOKした。
年金だけの収入でも、入る資格はある。
さっそく手続きをすると、みごと当選した。
家賃はなんと、それまでの5分の1になった。
築20年を過ぎた、中古団地ではあったが
安さにはかえられない。
3
「そう言えば、昔彼氏がいるとかいってたけど、あれはどうなったん?」
健康ランドにまだいたころ、言っていたことを思い出した。
彼女はためいきまじりに、答えた。
「うまいこといかなかったわ。
結局は自分の母親の世話を
私にさせようとしていただけだったわ。」
「それからね、家賃が高いから生活が苦しいと訴えたら、
『お前の貯金をすべて俺の名義に書き換えろ。
そうすれば、生活保護がもらえるから』って言うのよ」
彼女はしゃべりながら腹立たしさに、身もだえしていた。
結婚する気など、コレッポッチも無かったのである。
4
彼女は離婚後、自分で国民年金を払っていた。
支払い期間は30年に少し足らなかった。
国民年金は、満期で6万6670円だ。
彼女が、もらっているのは4万9千円たらず。
しかし、これを生活保護になると、家賃が4万2千円まで保障され
生活費が8万円もらえるのである。
しかも、医療費なども無料となる。
(あくまでも、尼崎市の場合)
彼女は、蓄えもあるので生活保護には頼りたくない。
どうしようもなくなったら別だが、生活できる間は
生活保護の世話にはなりたくないと言った。
年金問題が、こんなところに顔を出すとは。
まじめに働いてきて、5万円足らずしかもらえない。
そこから、介護保険をひかれ、家賃を払えば、
生活は窮する。貯蓄があるとはいえ、無くなるのは時間の問題だと思われた。
自ら一人になった者、病気で配偶者を失って一人になった者と
ケースはそれぞれ違います。
そういう人達を助けるような制度改正を、強く望みます。
一方では、稼げるときに贅沢し放題で
老後は、生活保護を受ける者が急増している。
許されないのは、その人々は国民年金をまったく払っていないことだ。
彼女のようにまじめに働いてきても、恩恵にあずかられない
人は、泣くしかないのでしょうか。
矛盾を感じる。
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